今日は、代官山の蔦屋書店へ、HASUNA代表の白木夏子さんのトークショー&サイン会へ。
今日のイベントは、「代官山 Work Design Night」の一環とのこと。
イベントタイトルが「はたらく私と本」、サブタイトルは「『WONDER』meets白木夏子さん トークショー&サイン会 〜世界を舞台に働くために必要なこと〜」とのこと(な、長い……)
登壇者は、白木さん+代官山蔦屋書店でワークスタイルフロアの企画・運営をされている渡部彩さんと、書籍専門のフリーランス広報をなさっている奥村知花さんの3名。
今日テーマになるのは『WONDER』という児童書です。
ワタシは未読なのですが、受付で配られたイベントのリーフレットに、本のイントロダクションが書かれていたので引用させていただきます。
オーガストはふつうの男の子。ただし、顔以外は。
生まれつき顔に障害があるオーガストは、10歳ではじめて学校に通うことになった。生徒たちはオーガストを居mて悲鳴をあげ、じろじろながめ、やがて……。
リーフレットによると、本書は全世界で300万部を突破し、NYタイムズベストセラーの第1位を獲得した1冊とのこと。
今日は本書のストーリーを交えながら、白木さんが世界を舞台に働く上で必要なことについて話してくださいました。
差別とどう向き合うか? 多様性をどう培うか?
『WONDER』は顔に障害を持って生まれた10歳の男の子、オーガスト君を中心に、彼の姉や学校の友達、母親など複数の目線から、彼のことをどう思っているのか? 彼や周囲の人々はどのような悩みを抱えて毎日を送っているのか?について書かれています。
最初はオーガスト君の視点から話は始まりますが、次は彼の姉の視点に移ります。
彼女はとても良い子ですが、両親は常に障害を持った弟を気にかけ、自分とは一緒に居てくれません。愛されたい人から愛情を得ることができないのは、子どもでなくてもツラい。
でも、彼女は両親に心配をかけたくないから、学校での出来事や悩みも話すことができず……と物語は展開していきます。
白木さんは、自身の小中学生だった頃のことを思い出し、この章ですごく泣いたとおっしゃっていました。
アクティブに世界を飛び回る現在の白木さんからは想像しにくいかもしれませんが、小さい頃はとても内向的で、クラスでも積極的に喋るタイプではなかったそうです。
通っていた学校は、白木さんの言葉を借りると「ガラが悪くて、イジメもすごかった」とのことで、彼女も1年に1回はイジメの対象になっていたんだそう。
だから、白木さんはオーガスト君や彼の姉の物語を読みながら、当時のことを思い出したそうです。
「あの頃にこの本を読んでいたら、いじめている側の気持ちも、クラスでイジメを見ても何も言わない人たちの気持ちも分かっただろうな」と。
「親切」の難しさ
白木さんは21歳の頃、インドのアウトカースト(カーストという階級制度にすら入れない人たち)の部落に行き、現地で2ヶ月間過ごした経験をお持ちです。
彼女は「現地で出会う人がアウトカーストなのか、どの階級に属しているのかは気にしない。同じ人間で、誰に会ってもフラットに接するし、いろんな話を聞こう」と決めて現地入りしたそう。
彼女がお世話になったNGOは、村人と一緒に話し合いながら、「どうやったらこの差別を解決できるか?」を考え、盛り上げていたそうですが、一方で現地には来るものの、「あなたたちはかわいそうだから、自分たちが与えてあげるよ」という態度のNGOもいて、現地の人もとても嫌がっていたそうです。
「して”あげる”」というのは違和感を覚えます。
どこかに「かわいそうだから」「救ってあげなきゃ」という、深い差別意識があるんじゃないか、と考えていました。
実は私が誰かのためを思って親切に行動したことが、相手にとって失礼に感じることもあるのかな、と思って、どうしたら良いのかと悩みました。
いろんな人の視点を知って、考え方の多様性を知ること。
世の中には本当にたくさんの人がいて、みんながいる中での自分なんだ、と。
どんな受け取り方をされるのか?をいろんな人の立場になって考えることが大切だと思うんです。
本書でも同様に「親切」がテーマの1つ。
本書の中で、オーガスト君の母親が同様のことをいうシーンがあります。
「嫌なことをする人もいて、親切な人もいて、そういういろんな人たちを全部ひっくるめて世界なんだよ」とオーガスト君に教えるシーン。
本書の広報を担当されている奥村さんは、このシーンにグッときたそう。
白木さんは教員免許をお持ちだそうですが、教育実習に行った学校でもイジメがあって、クラスのほとんどの子がいじめられた経験を持っていたんだそうです。
白木さんは社会人でもイジメを経験し、そういうことを乗り越えて強くなったと言います。
「イジメや差別はもちろんない方が良いけど、無くす努力と、全員で救済する努力、どこかに自分の心を癒やす人や場所を見つけることがすごく大事」とおっしゃっていたのが心に響きました。
「エシカル」基本のキ
ここからは少し話を変えて、「エシカル」について。
エシカル、という言葉は、もともとファッション業界から話題になった言葉。
華やかなファッション業界の裏で、末端にいる生産者の人たちは安い賃金で過酷な労働を強いられている……身につける人も、生産する人も、笑顔で幸せでいるのが理想ですよね。
その状況を変えていこう、というのがエシカルファッションが注目されたキッカケなんだそうです。
高いお金を払って買うアクセサリー。でも、そのお金は末端で働く鉱山の人にはほとんど届いていない、中間の人たちが安く買って高く売る。このビジネスはすごくおかしいと思った、と白木さん。
小さい頃から鉱物が大好き(!)だった白木さんは、自分ではジュエリーが作れる、だからジュエリー業界でビジネスをやろう、とHASUNAを立ち上げます。
HASUNAでは、今でも白木さんが現地に行って、末端で働く人たちが虐げられていないか、透明性をはかってから仕入れを行っています。
でも「かわいそうなことが現地で起こっているから買ってほしい」というアプローチは違うと思うんです。
ジュエリーブランドとして、ちゃんとしたモノ、自分でも欲しい!と思えるモノを作って、その中でどうエシカルでいられるか、自然環境もケアできるか。
「社会貢献につながるから買おう」では継続できないし、自分でも買わないと思う。
エシカルであろうとなかろうと、身につけたいと思うモノを作るのが前提なんです。
現在、創業7年のHASUNA。これまでには、「社会貢献やエシカルを打ち出したほうが良いんじゃないか?」と思ったりと、紆余曲折があったそうです。
でも、「私がしっくりくるのは、”このビジネスに関わる人が幸せだということが大事”ということ。鉱山で幸せに働く人が増えることが大切なんです」と白木さん。
特に日本では「お金=悪」と思われがちですが、彼女の意見は違います。
お金が悪なのではなく、そのお金を動かしているビジネス、特に経営者が良くないから、お金が悪だと思われてしまうのではないかと思うんです。
経営者がエシカルだったり、現地のことを配慮する。全部は無理でも、自分たちのやることが誰かのプラスになっていて、初めてビジネスは大きくなっていくと思っています。
売る方も買う方も幸せ、それによって世の中も良くなっていく、というのが理想ですね。
HASUNAのビジネスによって、現地でホームレスだった人が職人になって、家を買ったり、将来のことを考えられる人が増えてきたそう。
自分自身の生き方として、本質的に何が幸せなのか?何がやりたいのか?を常に自分に問いかけることが重要だと思っている、という白木さん。
「これはずっと問い続けたい。死ぬまで続けることなんだろうな、と思っています」という真っ直ぐな言葉が印象的でした。
■編集後記■
夏子さんとはプライベートでは肉仲間なんですが(笑)、講演に伺うといつもピッと背筋が伸びる思いがします。
口調は穏やかなのに、スッと一本芯が通っていて、でも決して無理していない感じ。
素敵だな〜!
最後に、聞き手の奥村さんからの質問「あなたの格言は?」に対する夏子さんの答えをご紹介します。
フリードリヒ・フォン・シラーの「迷い、夢見ることをはばかるな。高い志向はしばしば子供じみた遊びの中にあるのだ」という言葉。
1人1人与えられた使命は、結局子どもの頃にワクワクしていた、アドレナリンが出て仕方ないようなモノ。
そういう気持ちで毎日をワクワク過ごして、仕事や趣味に臨むことが、社会を良くしたり、友達や家族を幸せにできると思うんです。
この言葉は、「私は私でいいんだ」と思えた格言です。
いやはや、数日前にシンガポールから帰国し、今日も名古屋から直行したとは思えない素敵さ!
夏子さん、素晴らしいお話をありがとうございました!